
新事業進出補助金に採択されるためのロードマップ:申請から事業の実施まで
■本コラムのポイント
- 新市場進出補助金の目的、概要を解説しています。
- 申請するためのプロセス、必要書類が把握でき、申請に掛かる負荷が把握できます。
- 採択率を上げるためのポイントを把握できます。
目次
1.新市場進出補助金の概要
▼新市場進出補助金とは
新市場進出補助金とは、中小企業等が既存事業とは異なる事業に前向きに挑戦し、新市場や高付加価値事業に進出することで企業規模の拡大と付加価値向上による生産性向上を図り、賃上げにつなげることを目的とした補助金です。
この補助金に申請する場合は、上記目的に合致した事業である必要があります。
▼対象事業者
補助対象となる事業者は、中小企業者・小規模企業者等です。大企業、みなし大企業は対象外であり、一部の組合、財団法人、社団法人、医療法人なども対象外となります。
また、従業員が0名の事業者も補助対象外となりますので、注意が必要です。
詳しくは、公募要領の「補助対象者」の頁をご参照ください。
※公募要領:https://shinjigyou-shinshutsu.smrj.go.jp/docs/shinjigyou_koubo.pdf
▼補助率と補助額
補助額
従業員数 | 補助金額 |
従業員数20人以下 | 750万円〜2,500万円(3,000万円) |
従業員数21~50人 | 750万円〜4,000万円(5,000万円) |
従業員数51~100人 | 750万円〜5,500万円(7,000万円) |
従業員数101人以上 | 750万円〜7,000万円(9,000万円) |
※最低1,500万円以上の投資が必要(採択されても、補助金額が750万円以上にならない場合は採択取消となる)
補助率:1/2
▼補助対象経費
機械装置・システム構築費、建物費、運搬費、技術導入費、知的財産権等関連経費、外注費、専門家経費、クラウドサービス利用費、広告宣伝・販売促進費
※機械装置・システムか、建物費のどちらかが必須
※外注費は補助金額全体の10%まで
※専門家経費は上限100万円
※広告宣伝費の上限は事業計画期間1年あたりの売上高見込み額の5%(税別)
▼基本要件
新事業進出補助金に申請するためには、以下の公募要件をすべて満たす必要があります。
要件 | 内容 |
新事業進出要件 | 新事業進出指針に示す「新事業進出」の定義に該当する事業であること |
付加価値額要件 | 補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、付加価値額(又は従業員一人当たり付加価値額)の年平均成長率が4.0%(以下「付加価値額基準値」という。)以上増加する見込みの事業計画を策定すること |
賃上げ要件 | 補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、以下のいずれかの水準以上の賃上げを行うこと (1)補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、一人当たり給与支給総額の年平均成長率を、事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上増加させること (2)補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、給与支給総額の年平均成長率を2.5%(以下 「給与支給総額基準値」という。)以上増加させること ※目標値未達の場合、補助金返還義務あり |
事業場内最賃水準要件 | 補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、毎年、事業場内最低賃金が補助事業実施場所都道府県における地域別最低賃金より30円以上高い水準であること ※目標値未達の場合、補助金返還義務あり |
ワークライフバランス要件 | 次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を公表していること |
これらの基本要件を事業計画書上で示すことが重要となります。
注意点としては「②賃金の増加」があります。この要件は以下のいずれかを満たす必要があります。
- 給与支給総額の年平均成長率を2.5%以上増加
- 1人あたり給与支給総額の年平均成長率を事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の平均成長率以上増加
給与のカウント対象となる従業員は「各事業年度において、前月分の給与等の支給を受けた従業員及び役員とする」という内容があります。この条件では「給与支給総額の年平均成長率2.5%以上」という数値目標は社員の出入による要件未達成のリスクが高くなります。そのため、基本的には「1人当たりの給与支給総額の年平均成長率」を設定すべきですが、例えば新潟県の直近5年間の平均成長率は「3.5%」と非常に高い成長率となっており、高い成長率を目指す場合は人件費が大きく増加します。人件費の増加を上回る生産性向上ができるかどうかの見極めが重要になりますので、事業計画を良く練って、補助金を申請するかご検討ください。
▼その他要件
場合により、以下の要件を満たす必要があります。
要件 | 内容 |
金融機関要件 | 補助事業の実施にあたって金融機関等から資金提供を受ける場合は、資金提供元の金融機関等から事業計画の確認を受けていること |
賃上げ特例要件 | 補助事業実施期間内に、以下の要件をいずれも満たすこと (1)補助事業実施期間内に、給与支給総額を年平均6.0%以上増加させること (2)補助事業実施期間内に、事業場内最低賃金を年額50円以上引き上げること |
2.申請プロセスの解説
申請プロセスは以下のスケジュールに詳しく記載されています。

※引用:新事業進出補助金 スケジュール
申請における注意点は以下となります。
▼「事前準備」~「補助金交付候補の採択発表」まで
- GビズIDプライムを取得していること
申請は100%電子化されており、行政手続きに使われる「GビズIDプライム」が必須となります。 - 一定規模以上の申請を行う事業者はオンラインで口頭審査が必要であること
事業者自身が審査員とオンライン(Zoom等)で面談し、事業計画の内容を回答する必要があります。
▼「補助金交付候補の採択発表」~「交付決定」まで
- 交付決定以前に発注したものは補助対象外となること
事業計画に記載され、かつ交付決定後に発注したものが補助対象となります。
公募締切から交付決定まで時間がかかるため(4~5か月)、スピーディーに事業を行いたい場合は注意が必要です。
▼「交付決定」~「補助金の支払」まで
- 実績報告を締切までに実施しなければ補助金が支給されないこと
補助金の対象となる事業は、報告期間に締切があります。いつまでに支払終えなければならないかを確認した上で補助金を申請するかご検討ください。 - 補助金は、全ての支払いが終わって、実績報告が承認された後でなければ支給されないこと
事業の投資に必要な費用は、事業者様が確保した上で支払う必要があります。自己資金で足りない場合は金融機関からの融資も検討する必要があるため、金融機関との相談をご検討ください。
▼「補助金入金」以降
- 補助金が支給されて以降、毎年 計6回の事業化状況報告が必要なこと
補助金は毎年の報告が継続的に求められます。新事業進出補助金では実績報告後6年間、毎年1回の報告が求められます。事務手続きが煩雑な点も注意が必要です。 - 財産処分は制限されること
補助事業により取得した財産は、補助金を活用しているため「国の所有権もある」という状況です。そのため、当然ですが勝手に処分は認められないため事前に事務局の承認を受けなければならず、残存簿価相当額又は譲渡額等から算出された補助金額を納付しなければなりません。
3.必要書類と準備
申請に必要な書類は以下となります。
▼必須書類
書類 | 内容 |
事業計画書 | 補助対象事業に関する計画を記載した書類。事業計画書をもとに審査される。 事業計画書は電子申請システムに入力する。 |
決算書(直近2期分) | 直近2年間の貸借対照表、損益計算書(特定非営利活動法人は活動計算書)、製造原価報告書、販売管理費明細、個別注記表 |
従業員数を示す書類 | 労働基準法に基づく労働者名簿の写し ※申請時点のもの |
収益事業を行っていることを説明する書類 | ・法人の場合:直近の確定申告書別表一及び法人事業概況説明書の控え ・個人事業主の場合:直近の確定申告書第一表及び所得税青色申告決算書の控え |
固定資産台帳 | 補助事業で取得する予定の機械装置等が、既存事業で使用している機械装置等の置き換えでないことを確認するために使用 |
賃上げ計画の表明書 | 補助事業終了後3~5年の事業計画期間において、賃上げ要件で設定した目標値以上の賃上げを達成することを従業員等に表明していることを示す |
▼場合により必要な書類
書類 | 内容 |
金融機関による確認書 | 金融機関等から資金提供を受けて補助事業を実施する場合に必要 |
リース料軽減計算書 | リース会社と共同申請する場合に必要 |
リース取引に係る宣誓書 | リース会社と共同申請する場合に必要 |
再生事業者であることを証明する書類 | 再生事業者加点を希望する事業者の場合に必要 |
これらの書類の中で、準備に時間がかかるのは「事業計画書」になります。事業計画書以外の書類は、既存の書類や方向性が決まれば作成できるものですが、事業計画書は審査で自社で作成する必要があるため、時間がかかります。
公募開始から公募締切まで約2か月ですので、その2か月間で事業計画書を作成する必要があります。
4.採択されるための戦略とコツ
新事業進出補助金の審査観点は公募要領に明記されています。
新事業進出補助金では以下の項目で審査され、最初の4項目は事業計画書の内容で審査されます。
審査項目 | 概要 |
補助対象事業としての適格性 | ① 公募要領に記載する補助対象者、補助対象事業の要件、補助対象事業等を満たすか ② 補助事業により高い付加価値の創出や賃上げを実現する目標値が設定されており、かつその目標値の実現可能性が高い事業計画となっているか |
新規事業の新市場性・高付加価値性(選択制) | 以下①、②のいずれかを選択し、その内容が審査される。 ① 補助事業で取り組む新規事業により製造又は提供(以下「製造等」という。)する、製品又は商品若しくはサービス(以下「新製品等」という。)のジャンル・分野の、社会における一般的な普及度や認知度が低いものであるか。 ② 同一のジャンル・分野の中で、当該新製品等が、高水準の高付加価値化・高価格化を図るものであるか。 |
新規事業の有望度 | ① 補助事業で取り組む新規事業が、自社がアプローチ可能な範囲の中で、継続的に売上・利益を確保できるだけの市場規模を有しているか。成長が見込まれる市場か ② 補助事業で取り組む新規事業が、自社にとって参入可能な事業であるか。 ③ 競合分析を実施した上で、顧客ニーズを基に、競合他社と比較して、自社に明確な優位性を確立する差別化が可能か |
事業の実現可能性 | ① 事業化に向けて、中長期での補助事業の課題を検証できているか。また、事業化に至るまでの遂行方法、スケジュールや課題の解決方法が明確かつ妥当か。 ② 最近の財務状況等から、補助事業を適切に遂行できると期待できるか。金融機関等からの十分な資金の調達が見込めるか。 ③ 補助事業を適切に遂行し得る体制(人材、事務処理能力等)を確保出来ているか。第三者に過度に依存している事業ではないか。過度な多角化を行っているなど経営資源の確保が困難な状態となっていないか。 |
公的補助の必要性 | ① 川上・川下への経済波及効果が大きい事業や社会的インフラを担う事業、新たな雇用を生み出す事業など、国が補助する積極的な理由がある事業はより高く評価。 ② 補助事業として費用対効果(補助金の投入額に対して増額が想定される付加価値額の規模、生産性の向上、その実現性、事業の継続可能性等)が高いか。 ③ 先端的なデジタル技術の活用、新しいビジネスモデルの構築等を通じて、地域やサプライチェーンのイノベーションに貢献し得る事業か。 ④ 国からの補助がなくとも、自社単独で容易に事業を実施できるものではないか。 |
政策面 | ① 経済社会の変化(関税による各産業への影響等を含む)に伴い、今後より市場の成長や生産性の向上が見込まれる分野に進出することを通じて、日本経済の構造転換を促すことに資するか。 ② 先端的なデジタル技術の活用、低炭素技術の活用、経済社会にとって特に重要な技術の活用、新しいビジネスモデルの構築等を通じて、我が国の経済成長・イノベーションを牽引し得るか。 ③ニッチ分野において、適切なマーケティング、独自性の高い製品・サービス開発、厳格な品質管理などにより差別化を行い、グローバル市場でもトップの地位を築く潜在性を有しているか。 ④ 地域の特性を活かして高い付加価値を創出し、地域の事業者等に対する経済的波及効果を及ぼすことにより、大規模な雇用の創出や地域の経済成長(大規模災害からの復興等を含む)を牽引する事業となることが期待できるか。 |
大規模な賃上げ計画の妥当性(賃上げ特例の適用を希望する事業者に限る) | ①大規模な賃上げの取組内容が具体的に示されており、その記載内容や算出根拠が妥当なものとなっているか。 ② 一時的な賃上げの計画となっておらず、将来にわたり、継続的に利益の増加等を人件費に充当しているか。 |
加点項目 | 以下の項目を満たす場合一定程度の加点が実施されます。 ・パートナーシップ構築宣言を公表している ・えるぼし認定を取得している ・くるみん認定を取得している ・アトツギ甲子園のピッチ大会に出場している ・健康経営優良法人2025に認定されている ・技術情報管理認証を取得している ・成長加速マッチングサービスに課題を登録している ・中小企業活性化協議会等から支援を受けている再生事業者である ・特定事業者の一部に該当する(公募要領「2.補助対象者(3)特定事業者の一部」を参照) |
減点項目 | ① 加点項目要件未達事業者:中小企業庁が所管する補助金において、賃上げに関する加点を受けたうえで採択されたにもかかわらず、申請した加点項目要件を達成できなかった場合 ② 過剰投資の抑制:特定の期間に、類似のテーマ・設備等に関する申請が集中してなされている場合には、一時的流行による過剰投資誘発の恐れがあるため、別途審査を行う ③他の補助事業の事業化が進展していない事業者 |
上記から、採択の可能性を上げるためには、
・事業計画書が審査観点に合致した品質の高い計画になっていること
・多くの加点を得ていること
が必要になります。
事業計画書の品質を上げるには、具体的で妥当性・実現性が高い計画を練り上げることが必要になります。ただし、この作業は事業者様の新たな事業をより具体化するものであり、事業の成功確率アップやリスク回避につながる大きなメリットにつながります。
補助金の獲得だけでなく自社事業の成功につながるよう、具体的で妥当性・実現性の高い事業計画を作成しましょう。
5.まとめ
新事業進出補助金は最大で9,000万円の補助金を得られる規模の大きな補助金です。一方で、投資規模も大きくなるため事業者様のリスクも大きくなります。また、補助金の申請・事後報告などの手続き負荷も想定する必要があります。
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文責:鈴木俊雄